ユニマットの組織再編による100億円税務申告漏れを解説!
コーヒーサーバー事業のユニマットが、国税庁より100億円の申告漏れを指摘されたようです。
ニフティニュース「ユニマット、約100億円の申告漏れ」
https://news.nifty.com/article/domestic/society/12198-040443/
以下引用
コーヒーサーバー事業を手がける東京・港区のユニマットライフなどのグループ会社が、東京国税局からおととし3月期までの6年間で、およそ100億円の申告漏れを指摘されていたことがわかりました。関係者によりますと、ユニマット社などはグループ会社内の組織再編を進める中で、所得を減らす行為があったということです。
東京国税局は「組織再編は経済的な合理性に乏しく、租税回避目的だった」と判断したとみられます。ユニマット社などはすでに修正申告を行い、重加算税などを納付したということです。(10日10:46)
現時点ではどのニュースソースもこの程度の記載しかなく、詳細はわかりませんが、おそらく「組織再編に係る行為・計算の否認」がされたものと推察されます。
今回は、少ない情報源のため推測も入りますが、この組織再編の行為・計算の否認について解説します。
追記:提携同業者より読売新聞により詳細な事実関係が記載されていると伺い確認したところ、やはりおおむね下記のような構造だったようです。
組織再編の行為・計算の否認とは
まずは、組織再編の行為・計算とは何かについて確認しましょう。
組織再編の行為・計算否認の概要
組織再編税制は、少しスキームを変えるだけで、非常に税金が増減したり、まったく発生しなかったりといった極端な税制度です。一方で組織再編行為は自由度が高く、組織再編を複雑に組み合わせることで、様々な応用ができてしまう特徴もあります。
このような場合、組織再編を複雑に組み合わせることで、通常であれば税金が発生したり、節税ができないケースでも、強引に税負担の軽減を図ろうとする輩が必ず出てきます。
課税当局もそれを警戒し、「全体的に見て、複雑なスキームで不当に税逃れをした場合は、本来あるべき税金計算に直す」という制度になっています。このような税務否認の仕方を「包括否認」といいます。
どのような場合に否認されるのか
包括否認を受けるのは、組織再編が「租税回避」=「不当な税逃れ」であると認定された場合です。
租税回避の詳しい要件は「組織再編で『節税』が包括否認される4つの要件基準と対策」という記事に詳しく記載していますが、簡単に言うと、「税負担の軽減を目的として、事業上の必要性に乏しい組織再編を行った」場合に、包括否認を受けるということになります。
ユニマットが税務申告漏れを指摘された理由
ユニマットの組織再編がどのようなものなのかは、記事ではよくわかりません。ただ、いろいろ調べてみると、2013年以降にやや複雑な組織再編をしているようです。
2013年以降の組織再編
wikipediaのユニマットホールディングの記事によると、以下のような沿革になっています。
- 2013年4月1日 – 株式会社ユニマットホールディング(初代)が株式会社ユニマットライフを吸収合併し、株式会社ユニマットライフ(6代目)に商号変更。
- 2013年 – 株式会社ユニマットゼネラル設立。
- 2014年11月 – 株式会社ユニマットリゾート&コミュニティが、ユニマットキャラバン株式会社と合併し、株式会社ユニマットプレシャスに商号変更。
- 2015年3月31日 – 株式会社ユニマットプレシャスが出光マリンズより三河御津マリーナを譲受。
- 2015年12月1日 – 株式会社ユニマットゼネラルが株式会社ユニマットホールディング(2代)に商号変更。
今回否認を受けたのは、ユニマットホールディング、ユニマットライフ、ユニマットプレシャスだそうですが、確かに複雑な組織再編を行っています。
ユニマットホールディング(初代)がユニマットライフと合併し、名前もユニマットライフに変更。
じゃあユニマットホールディングという会社はなくなったのかと思いきや、上記合併の直後に設立されたユニマットゼネラルがユニマットホールディングスに商号して復活、という流れです。
合併消滅後、新会社設立で実態は変わらず?
商号から推察する限り、ユニマットホールディング(初代)は合併により事実上消滅(合併存続会社ですが、持株会社の実態としては消滅)し、その直後にユニマットホールディング(2代目/この時点ではユニマットゼネラル)が誕生しています。
もしユニマットホールディング(初代)に使いきれない繰越欠損金があった場合、ユニマットライフと合併することで、当該繰越欠損金を「節税」に活用できます。
この時点では持株会社体制ではなくなってしまいますが、その後ユニマットゼネラルを設立し、株式交換で持株会社体制に戻せば、グループの実態は何も変わっていないのに、繰越欠損金だけが活用されたという不思議な現象が起こります。
税逃れ目当ての合理性の乏しい組織再編?
上記は推測ですが、このような組織再編を見ると、さすがに私でも「これはちゃんとした理由があるのか?」とか「税務リスクが高いなぁ・・・」と思わざるを得ません。
大きなグループ会社の組織再編、まして100億円もの税効果のあるスキームですので、まさか外部コンサルタントなしで実行することはないとは思います。繰越欠損金活用の合理性について十分な検討があったのか、気になります。
今回は、少なくとも、国税庁には「十分な合理性がない」という判定が下され、否認を受ける結果になったということです。ユニマット側がこの否認を受け入れたのか、一旦修正申告だけしておいて、審判所や裁判所で戦うつもりなのかはわかりませんが、訴えてもらえると情報が公表されますので、ぜひ戦ってくれないかなぁと思うところです。
追記:幸か不幸か、ユニマット側は税務否認を受け入れたようです。税務調査に対して十分な理論武装があったのか、少々疑問が残るところです。
「節税」を目的とした組織再編には要注意!
組織再編税制は、繰越欠損金の活用を目的とした組織再編に対してはかなり敏感で、表に出てこない中小企業の否認事例は非常に多いようです。
グループ経営をしている経営者に、繰越欠損金を意識するなというのは無理な話(というか意識するべき)で、当社に来るご相談でも「節税」はかなりのウエートを占めます。
ただ、色々ディスカッションしても「節税」以外に合理的な理由が出てこない案件は、お断りしています。上記のような組織再編の行為計算否認の規定がある以上、「法の目をかいくぐる節税策」など存在しません。
何より、税務リスク云々以前に、組織再編は関係者に少なからぬストレスを与えますので、税金だけを理由に行うべきではありません。いくら節税ができたとしても、事業がおかしくなっては元も子もないですから。
安全な使い道もあったのでは?
今回否認された繰越欠損金ですが、不自然な組織再編さえしなければうまく使えたのでは?と思わざるをえません。
たとえば、ユニマットホールディングとユニマットの合併だけで止めておき、持株会社機能も保有させた事業持株会社にしておけば、税務否認のリスクは相当下がっていたでしょう。
また、節税効率は下がりますが、連結納税制度を導入することによって、ほぼ無リスクで活用できたようにも思います。
変な節税策を講じてしまったばっかりに、結局否認され加算税まで発生させるというのは、ユニマットほどの会社としては残念としか言いようがないように思います。