「税務リスク」とは何か?微妙な税務用語をわかりやすく解説!

「税務リスク」とは何か?微妙な税務用語をわかりやすく解説!

当サイトのコラムでは、「税務リスク」という言葉がよく出てきます。たとえば以下の記事。

効果絶大!タテの会社分割による株式売却M&Aの高度な節税術

これを読んだ方の中には、「税務リスクって、脱税が税務署に見つかる可能性のこと??」という印象を持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、当然ながらそういうことではありません。

まず明確に否定しておきますが、「税務リスク」と「脱税」はまったく関係のない言葉です。脱税指南していたのでは、私まで逮捕されかねないですし、税理士資格は当然剥奪です。

しかしながら、誤解を招かぬよう、「税務リスク」とは何なのかについて、本記事でしっかり説明したいと思います。

税務に関する「リスク」とは何か

まずは一般的に、「リスク」という言葉が持つ意味について考えてみましょう。

「リスク」という言葉の意味

まず字面から考えましょう。

リスクというのは「不確実性」のことです。「将来、得をするか損をするか、確実なことは何も言えない」という意味です。

税務リスクは「損」しかない

なお、得をする方向の不確実性でも「リスク」という言葉を使いますが、こと税務リスクに関しては「損」しかないと考えるべきでしょう。

税務リスクは税務調査で発現するものですが、よほど明確な間違いでない限り、税務調査官が「これもっと節税できたから還付請求出したほうがいいですよ」ということはありません。

「脱税がバレるリスク」と「税務リスク」は別物

「脱税」は犯罪ですので、その行為が見つかるか否かというリスクはありますが、見つかった際は確実に追徴課税、重加算税、刑事罰などのペナルティが課されます。

見つかるか否かは犯罪の成功/失敗のリスクであって、税務リスクとは違うものです。

税務リスクとは、解釈の問題

では税務リスクとは何か、それを簡単に言うと、「納税者の主張・解釈が税務調査で認められないリスク」です。

税法は解釈の余地が広い

税金は国家を支える国民の義務であり、全国民一律の厳格なルールで運用されています。1億人以上の国民から財産を集めるルールですので、複雑かつ高度で、非常によくできていると思います。

しかしながら、経済活動はそれを遥かに上回るほど複雑で、しかも日々変化していきます。ルール改定が追い付かないのは当然で、そこに解釈が必要になるのもまた当然です。

たとえば、「交際費は損金不算入」という税務ルールがありますが、法人税法の条文にはこの「交際費」とは何かということについて、ほとんど説明はありません。飲食費は5,000円超だとか、役員の個人的な会食は役員報酬にすべきだとかいうルールは、税法の「解釈」として存在しています。

この「解釈」が、税務リスクの正体なのです。

税務リスクは主観的解釈の幅

流行の音楽を聴いていて、「あれ?この曲、違うアーティストのあの曲に似ている!」と感じたことはありませんでしょうか。音楽に限らず、芸術の類は似ているものが少なくありません。

パクリ・盗作はタブーですが、他人の作品を参考にするとどうしても共通点が生まれます。そのように切磋琢磨しながらより良いものが生まれるのも事実で、参考にすること、インスパイアされること自体は問題ないはずです。

ただ、パクリかインスパイアかは本人しかわかりえないことであり、一方で第三者しか断罪できない問題でもあります。しかし判断基準は主観なので、ある人が見ればパクリであり、別の人が見ればインスパイアの範疇、さらに別の人が見れば全然違う作品ということも珍しくありません。

このような、「見る人、感じる人によって解釈に生じる幅」を税法解釈に当てはめたものが、「税務リスク」と呼ばれるものです。

リスクを避けきることは難しい

これまでの常識を覆す、まったく斬新な発想で作品を作れば、パクリ疑惑のリスクは回避できるでしょう。しかし、松本人志の映画みたいに、意味不明で興行成績も振るわない結果に終わるリスクが高いでしょう。売れるためには売れている作品を参考にする必要がありますが、その分パクリ疑惑のリスクは高まります。

同じように、新しい取引ほど、「これまでの解釈には収まらないケース」になる可能性が高まり、税務調査官が新しい解釈を抱くリスクも高まります。

税務リスクはどのようなときに発現するか

税務リスクが発現するのは、税務調査において、調査官との解釈の違いで、「決定・処分」がなされる場合です。

税務調査とは

税務調査とは、税務署や国税局などが申告済みの期間の経理や税務処理に問題がないかをチェックしにくることです。

単純な記帳ミス、申告書作成ミスもチェックしますが、1つの取引について、税法の適用が正しいかどうかについてもチェックされます。

解釈の違いとは

たとえば、交際費の中に社長の親戚との会食費用が含まれていたとしましょう。この会社は個人向けビジネスを行っており、その親戚も顧客になりえたとします。

会社としては、「役員の親戚は会社にとって上顧客候補なのだから、他の上顧客と同じぐらい接待交際を行うのは当然だ」と考えました。

一方、税務調査官は、「これは社長が職権を乱用して、仲の良い親戚との会食費用を会社負担にさせているだけだ。よって、交際費ではなく社長に対する役員給与とすべきだ」と考えました。

ここに「解釈の違い」が生まれています。会社は接待と解釈しましたが、税務調査官は個人的支出だと解釈したわけです。解釈の相違が生まれ、なおかつ税務調査官が納得できる説明を会社ができなかった場合、次の「決定・処分」に進みます。

(補足)組織再編でよくある「解釈の違い」

なお、組織再編の分野で「解釈の違い」として、よく税務調査官と議論になるのは、以下のようなケースです。(スラッシュ以降は有名な税務否認事例)

  • ・合併の繰越欠損金の引継可否/ヤフー事件
  • ・組織再編の税制適格性/IDCF事件
  • ・株式の売買価格の妥当性(「時価」を巡る問題)/日産事件
  • ・組織再編を利用した相続税の節税スキームの是非/タワマン節税等(係争中)

これらは明確な税務ルール違反を犯したわけではなく、「事案をどのように解釈し、税務ルールをどのように適用すべきか」について、会社と税務調査官で意見が相違したというものです。

特に日産事件やタワマン節税を巡る事案は、国税庁が公表している解釈指針どおりに申告したところ、「もっと最適な税金計算方法がある」と言われて否認された事例です。

決定・処分とは

「決定」と「処分」は厳密には違うものですが、まとめて簡単に言うと「税務調査で指摘した事項を修正申告させ、さらにペナルティとして加算税を課す」ということです。

会社と税務調査官の解釈の溝が埋まらない場合、税務調査官は国税庁内の承認を得た上で決定・処分を行います。事実上の強制的な徴税と罰金の賦課です。

納税者がこの処分に納得できない場合、「国税不服審判所」や「裁判所」といった機関に国を相手取って訴えを起こし、第三者の公正なジャッジを仰ぐことになります。

税務リスクのマネジメント

上述のように、税務リスクは企業が幅広い経済活動を行う上では完全には避けて通れないものですが、何も準備しなければ経営に大きなダメージが生じます。そこで、適切なマネジメントを行う必要があります。

税務リスクに気付く(気付ける税理士を使う)

税務リスクの存在に気付くことが第一歩です。

ただし、税務リスクは、事前に「もしかしたら解釈に相違が生まれるかもしれない」と思う場合もあれば、税務調査官から「そんな解釈の仕方があったとは」と思うような説が提起されることもあります。

この「可能性に気付く」というのはプロでなければ簡単ではありません。税務争訟の事例をよく知り、物事を多面的に考えることのできる税理士さんと相談しましょう。(宣伝ですが、弊事務所は通常の税理士事務所・税理士法人の何十倍も組織再編に携わっているので、組織再編に関してはかなり長じていると自負しております)

税務リスクの重大性を測る

一般にリスクに備えるときは、「そのリスクが発現する確率」と、「発現したときの損害規模」を客観的に評価することが重要です。

リスク発現確率は難しい!

「発現する確率」については、正直私も正確なことは言えません。サイコロを振るような話ではなく、顔も知らない税務調査官がどのように考えるかの問題ですので、一概に確率で表すのは困難です。

ただし、時間はかかりますが、税務署の事前照会制度を使うというのも手段としては有効です。税務否認されない保証にはなりませんが、危険そうか安全そうかの判断材料としてはある程度有効です。

ただし、実質的に一発勝負の事前判定であり、仮に説明不足であっても、ダメと言われたら取引を強行するわけにはいかなくなります。税務署に行く前に入念に準備し、もっともフェアな判定が出るように職員に対して丁寧に状況を説明しましょう。

発現したときの損害規模を測る

リスク発現確率は予測が難しいですが、発現したときの損害規模は比較的予測しやすいです。

税務否認の方法はさまざまですので、完全に予測しきることはできませんが、専門知識のある税理士に頼めばある程度の見積もりは行ってくれます。

節税の問題ではありませんが、「リスクが発現しても大した損害がないから、経理作業が簡単な方法で記帳・申告する」という選択も考えられます。

税務リスクを低減するテクニック

税務リスクを評価した際、下げられる方法があるなら、どんどんやっていきましょう。

上述のとおり、税務リスクの根源は「解釈」です。納税者側の解釈を税務調査官が納得してくれれば、解釈の違いによる税務否認はなくなります

税務リスクを下げる方法として、以下のようなテクニックがあります。

  1. 首尾一貫した理論武装
  2. 関連資料の整理
  3. 税務意見書の準備
  4. 適切な税務申告書の提出

詳しい説明は「組織再編で『節税』が包括否認される4つの要件基準と対策」で解説していますので割愛します。特に組織再編で「節税」をお考えの方はぜひご一読ください。

本稿では、上記のさらなる具体版として、組織再編以外でも広く有効なリスク低減手段をご紹介します。

税務リスク低減手段1 決済・稟議ルールの整備

決済や稟議がほとんど機能しておらず、会社の意思決定はすべて管理者への口頭説明・口頭承認という会社も多いと思います。小規模の会社は仕方ないのですが、規模が大きくなると、「いかにもグレーな取引が行われていそうな会社」という先入観を、税務調査官に与えてしまいかねません。

会社の意思決定を書面で残しておくことで、何のために行われた取引なのか、誰が主導した取引なのかなどの情報を、客観的証拠をもって説明できるようになります。

また、定期的に訪問している顧問税理士や職員さんにも伝わり、解釈に幅が生じうることを申告前に気付きやすくなるでしょう。(それだけの能力のある人が担当してくれていれば、ですが)

税務リスク低減手段2 顧問税理士の活用

顧問税理士への質問は、遠慮せずにどんどんしていきましょう。新しい取引が生じるたびに、異なる解釈が生じる余地がないかを確認することが、大きな事故を防ぐことにつながります。

多くの税理士事務所・税理士法人では、無資格の職員さんが実務的な対応をしています。特に金額が大きい取引であれば、アシスタントではなく有資格のボスの意見を聞くようにしましょう。

税務リスク低減手段3 セカンドオピニオンの活用

税務リスクは解釈の問題ですので、1つの視点だけでは解釈の幅を見落としたり、特定の解釈に固執してしまったりすることがあります。どんなに優秀な税理士でも人間ですので、常に合理的な結論が下せるわけではありません。

重要な取引になるほど、多面的な視点からの税務意見を集めましょう。経営者としては、そのうちもっとも論理的と思う意見を採用したり、反対意見に対する説明の準備をしておくことが大切です。

税務リスク低減手段4 添付書面を付けてもらう

「税理士法第33条の2 書面添付制度」を活用し、税務申告書の後ろに、「顧問税理士が何をチェックし、どんな相談を受け、どんな税務処理を行ったか」を記載した書面を添付してもらうことです。詳しくは以下の日本税理士会連合会のサイトをご覧ください。

http://www.nichizeiren.or.jp/taxaccount/document/

この書面には、「会社がどのような取引をして、どのような解釈によって、どのような税務処理をしているか。そして顧問税理士はそれを妥当と考えたか否か」といったことが書かれます。つまり、納税者の解釈主張を誤解されることのないように、税理士からしっかりと伝える役割を持っています

これが添付されていれば税務調査がなくなるというものではありませんが、しっかりと書いてあれば税務調査の頻度は激減すると言われていますので、顧問税理士さんにぜひ付けてもらうようお願いしましょう(私は必ず付けますし、顧問でない関与先には記載文案を「提案」しています)。また、会社の主張内容と一致しているか、申告前に確認させてもらいましょう。

税務リスク低減手段5 税務意見書の取得

大きな金額の税務リスクが発見された場合には、万が一税務調査官と議論になった際に備えて、「税務意見書」を用意しておきましょう。

税務意見書とは、具体的な取引に対し、独立した第三者である税理士が客観的に考える「解釈」について、意見とその理由を表明する論文のようなものです。論述構成や文章の体裁も法務論文レベルにしっかりと書きます。税務意見書が提出されると、税務調査官はその内容を論破しない限り税務否認はできません。少し大げさにいえば、税務調査官を説得する切り札です。

税務意見書はコストがかかるので、税務リスクがある取引について、なんでもかんでも取得することはおすすめしません。税務リスクが発現したときの損害規模を踏まえて検討しましょう。

なお、きちんとした税務意見書が書ける税理士は多くないですが、その中にも得意不得意があります。弊事務所の場合、組織再編に関する意見書は(納税者の主張に賛同できる限り)書くことができますが、その他の分野はお断りする場合があります。

おわりに

「税務リスク」という言葉には、なんだか違法スレスレのことをしているような怪しい響きがありますが、決してそのようなものではないことをご理解いただけましたでしょうか。

気付くか否かは別として、税務リスクは経営活動を行っていると必ず発生します。それ自体は違法でも何でもないのですが、発現したときに不足分の税金によって資金繰りが狂うだけでなく、加算税・延滞税も発生しますので、無用なダメージを受けることがあります。「そんなに税金が発生するとわかっていたなら、そもそも取引をしなかった」ということもありえます。

「わが社は悪いことしてないから大丈夫だ」と考えていては、思わぬトラブルが起きかねません。税務リスクを過小評価することなく、しっかりとリスクマネジメントしていきましょう。

トップへ戻る

合併・分割・組織再編 無料相談 組織再編のプロがしっかりサポート! 古旗淳一税理士事務所 リンクバナー

組織再編税制とらの巻