要注意!アフィリエイトサイトをM&Aで買収しても節税にはなりません!
「M&Aや組織再編専門の税理士」を名乗ってこのようなWebサイトを公開していると、「アフィリエイトサイトをM&Aで買収すると、買収資金は全額損金(税金計算上の経費)で落とせるんですよね?」というご相談をいただくことがあります。
調べてみると、結構そのようなことをもっともらしく語っているWebサイトが結構見つかります(当然ながら執筆者は税理士ではないです)。サイトM&Aの仲介サイトに誘導して広告収入を得ようとしているのでしょうか。無責任な話もあったものです。
結論から申しますと、「アフィリエイトサイトの買収で節税なんてできるはずがない」です。
サイトにプログラム的機能が付いているか否かなんて関係ありません。
アフィリエイトサイトを投資として買収するなら面白いとは思います。ノウハウがある人がうまくやれば、結構儲かるんじゃないでしょうか。また、自社の商品・サービスを宣伝するための広告効果を期待するのもよいと思います。いいWebサイトには極めて高い広告価値が十分あります。
ただ、節税目的で買収するのは本当にお勧めしません。危険すぎます。私が税務調査官であれば間違いなく指摘するでしょう。
なぜ危険なのか。M&A・組織再編を専門とする税理士として、個人の見解を書きたいと思います。
プログラム的機能のないサイトは広告宣伝費?
Webサイトの製作費用は広告宣伝費か、それとも固定資産かという議論は、かつて国税庁が以下のような見解を公表していました。
ホームページは通常頻繁に更新されるものであり、支出の効果が1年以上に及ばないため、原則として支出時の損金となる。
ただし、プログラム的機能(ECサイトの購入フォームなど)があれば、それはソフトウエアの作成に準じて、5年間で償却すべきである。
この見解は、現在では公表が取りやめられていますが、今も大企業から中小企業までこの「プログラム的機能があるかないか」で会計処理を決めているのが本稿執筆時現在(2018年)の一般的な実務慣行のようです。(実際には、「見解の公表が取り下げられた」理由を想像すると、あまり過信するもの危険かもしれません)
で、アフィリエイトサイトは・・・?
「アフィリエイトサイトを買えば一発で落とせるよ論者」の方々は、「アフィリエイトサイトはプログラム的機能がないから、前者の税務処理に準ずるべき」と主張されています。
ただ、通常のWebサイトが一発で落とせる理由は「支出の効果が1年以上に及ばない」からですよね?
広告収入の1~2年分で取引されるサイトM&Aにそぐわないのは明らかのようにも思うのですが、そのツッコミは一旦置いておきましょう。買収したWebサイトがソフトウエアに該当するか否かなんて、あまり意味はありません。
なぜなら、仮にアフィリエイトサイトがソフトウエアに該当しなくても、どっちみち5年で償却せざるを得ないからです。
M&Aには「のれん(資産調整勘定)」が発生する
M&Aにおいて、買収した資産・負債の価値と買収価額は通常一致しません。会社や事業には単なる保有資産の価値を超える無形の財産価値があるからです。これを「のれん」といいます。
事業譲渡の場合、税務においてものれんを資産として認識することになります。それが「資産調整勘定」という税務特有の資産勘定です。
事業譲渡の税務処理については、「事業譲渡の税務仕訳」で解説していますが、「買収額―受け入れた資産の資産評価額」が資産調整勘定になります。
そのため、受け入れた資産の資産評価額がゼロであれば、買収額が全額「資産調整勘定(税務上ののれん)」という特殊な資産になります。
そして、この資産調整勘定は、5年定額(月割り)で損金に算入されます。
つまり、仮に買収したアフィリエイトサイトのソフトウエア性が否定され、固定資産計上しなくてもよいという結論になったとしても、代わりに「資産調整勘定」という別の資産が計上され、結局5年で償却することになる、というのが私の見解です。
資産調整勘定については、「のれん&営業権償却が損金(税務上の費用)になる全パターン」にまとめていますので、気になる方はご覧ください。
アフィリエイトサイト売買は事業譲渡なのか?
ただ、サイトという無形資産を売買しているだけなので、事業譲渡には該当しないのではないか?と思う方もいらっしゃるかもしれません。
税法で運用されるうえでの「事業」とは何かについて、適切な定義はありませんが、自律的に売上を上げることができるアフィリエイトサイトが事業ではないと主張するのは至難の業ではないでしょうか。通常は当該アフィリエイトサイトによる広告収入を期待して投資をしているわけで、普通の感覚でいえば事業であると考えるべきではないでしょうか。
また、仮に事業ではないとすれば広告宣伝物かということになりますが、広告宣伝物として扱うのであれば、買収した会社の既存事業の売上に貢献することが期待されなければなりません。仮に主たる購入目的が既存事業の宣伝であり、せっかくだからアフィリエイト機能もそのまま残しているという場合あれば、広告宣伝費で落とすことにも余地がある思いますが、実際にはそのような意図で購入されていることはまれでしょう。
ちなみに、契約書のタイトルが「事業譲渡契約」であれ「Webサイト売買契約」であれ、税務では実態が重視されますので、何の関係もありません。
余談ですが、民法・会社法の運用においては、「事業譲渡とは、一定の事業目的により組織化された有期的一体としての機能的財産の移転を目的とする債権契約であり、譲受人による事業活動の承継および譲渡人の競業避止義務を伴うもの」と判例で定義されています。
もし裁判までいくのであれば、「譲渡人の競業避止義務がなければ事業譲渡ではない」(競業避止義務がないサイト売買があるかはわかりませんが)と主張するしかないかなとは思いますが、税法は民法・会社法とは別次元で運用されているのが現実であり、上記の定義をそのまま準用できる可能性は低そうだなというのが直感的な印象です。
投資としては面白いとは思いますが、、
一応フォローしておきますと、アフィリエイトサイトを買収するのは投資としては面白いと思います。
私もブログを書いていたりしますが、意外と安定した広告収入があり、お小遣い程度にはなります。優良な記事が大量に書かれたブログはPV数も大きいため、そのPV数をきちんと維持するノウハウさえあれば、結構な収入になるのだろうということは想像がつきます。
ただし、私自身は買おうとはあまり思いません。ブログの所有者となると、その記載内容に責任を持たなければならないため、他人の書いた記事でリスクを負うのも嫌だなというのが本音です。
いずれにせよ、節税の効果はまったくありません。投資は自己責任でやったらいいと思いますが、税金対策で買うことは本当にやめたほうがよいと思います。
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