長期戦略で考える連結納税のメリットとデメリット

連結納税のメリットとデメリット

 

はじめに

グループ経営の税務戦略でよく話題に上がるのが「連結納税」です。日本では平成14年に導入された制度ですが、まだまだ馴染みが薄く、あまり浸透していません。

今回は、そんな連結納税のメリットとデメリットを考えます。後述しますが、連結納税は一度採用したら原則として取りやめることはできませんので、目先の繰越欠損金や税額控除ばかりを追うのではなく、長期的な経営戦略に合わせた長い目での検討が重要になります。

連結納税のメリット

①会社間での損益通算が可能

連結納税は完全支配関係(100%保有)のある会社間の損益(課税所得)を合算し、それに対して税を課す仕組みですので、親会社が黒字、子会社が赤字といった場合には、差し引きの純額に対して税が課されます。すなわち、連結グループに赤字の会社がある場合、グループ全体で見た税負担額が軽減されます。

②繰延税金資産の回収可能性で有利になることが多い

これは上場会社が適用する税効果会計の話ですが、繰延税金資産のうち法人税分は、将来の課税所得が大きいほうが多く計上できるため、計上額が大きくなる(=会計上の利益が出やすい)ことが多いです。

あくまで「そういうことが多い」というだけの話ですし、中小企業ではあまり意味のない議論ですが、大手企業が連結納税を選択する理由として案外大きなウエイトを占めていると思われます。

③親会社の繰越欠損金をグループ全体で利用可能

連結親法人(グループ頂点の親会社)の繰越欠損金は連結グループに持ち込むことができ、グループ全体が黒字の場合に損金算入することができます。

なお誤解の多いところですが、連結子法人(連結親法人以外の子会社)の持つ繰越欠損金は、たとえ連結グループに持ち込めたとしても、他の会社の利益と相殺できるわけではありません。連結納税開始時点で5年超の完全支配関係のある子会社の繰越欠損金は持ち込めますが、その繰越欠損金はそれを持っていた会社の所得の範囲内でしか使えないため、結局個別納税の場合に比べて特にメリットはありません。

④個別の税制で有利になることも

所得拡大促進税制などの税額控除や、寄付金の損金不算入、受取配当等の益金不算入などの個別税制については、連結グループ全体での計算に切り替わり、その結果税負担が軽減されることがあります。控除上限を大きく超えているため切り捨てられている控除額がある場合には検討するといいかもしれません。

長い目で考えるメリットのまとめ

③と④は短期間のメリットとしては意識したいところですが、繰越欠損金には期限があり、また個別の税制はいつ廃止・改正されるとも知れないため、これだけを過大評価して連結納税を選択することはリスクが大きいと思われます。

長い目で見た場合、永続的にメリットをもたらすのは①損益通算と②回収可能性であり、特に中小企業の場合は①の損益通算に重点を置いて検討すべきと考えます。特に、子会社を作って新規事業を育てていこうと考えている場合は、スタートアップの赤字をグループ全体で節税できるため、大きなメリットになります。

連結納税のデメリット

①原則としてやめることができない

私が経理時代に連結納税の導入を検討した際に、もっともネックと感じたのがこの点です。連結納税は一度選択してしまうと原則としてやめることができません。

親会社の繰越欠損金を使い切り、連結グループが全社黒字化しても、連結納税は続けなければなりません。目先の節税のために軽い気持ちで選択することのないように気を付けましょう。

②とにかく手間がかかる

連結納税の計算構造は複雑で、親会社と各子会社の間で情報を何度も交わしながら計算していきます。ひとつの子会社でミスがあった場合は連結全体の計算が狂うため、大幅な手戻りとなります。経理部長に連結納税を検討させると大概反対しますが、無理もないところだと思います。

なお、ちょうど旬刊経理情報の2016年8月1日号で連結納税導入について特集されていますので、導入を検討される際は一読いただき、如何に大変な作業かを認識していただければと思います。

③開始・加入時点で時価評価が生じる

連結納税の開始時点で、完全支配関係成立から5年以内の子会社があれば、当該子会社の一部の資産を時価評価する必要があります。また、連結納税導入後にM&A等で完全子会社化した会社があれば、これも資産の一部を時価評価します。評価益には課税が生じます。

これは大変な手間になりますし、キャッシュフローも悪化します。一応含み損があれば損失計上できることもありますが、営業権(≒のれん)も時価評価するため、全体的には含み益であることのほうが多いでしょう。

(追記)平成29年度税制改正にて、帳簿価額1,000万円未満の資産は時価評価対象外とすることが検討されています(平成29年10月1日より適用)。これにより、ほとんどの場合で営業権を計上する必要はなくなることが予想されます。

④子会社の繰越欠損金は原則切捨て

連結納税の開始時点で、完全支配関係成立から5年以内の子会社は、繰越欠損金があっても連結グループに持ち込むことはできず、連結納税開始によって消滅します。また、連結納税導入後にM&A等で完全子会社化した会社があれば、これも繰越欠損金を連結グループに持ち込むことはできず、連結納税加入によって消滅します。

一応、デメリット③の時価評価により営業権が計上され、営業権償却によりグループ全体で損金が計上できるという構造ではありますが、多額の繰越欠損金を有する会社が多額の営業権を計上できることは稀であり、基本的にはデメリットとして働くことが多いでしょう。

なお、連結納税開始時点で完全支配関係成立から5年超の子会社は、繰越欠損金を連結グループに持ち込むことができますが、これは当該子会社の個別所得の範囲内でしか使えないという制約があるため、個別納税に比べて得というわけではありません。

⑤実質的に決算日をずらせない

連結納税では、グループ全社が同時に税務申告をしなければならないため、子会社は親会社の決算に合わせて決算しなければなりません。決算日がずれている場合は、親会社に合わせてみなし決算を行うことになるため、実務的には決算日を統一することになります。

決算日が統一されることでマンパワーが必要になりますし、上場会社の場合は非常にタイトなスケジュールで動くことになります。

⑥個別の税制で不利になることも

連結納税になると連結グループ全体で損金算入上限等を計算するため、有利になることもあれば、不利になることもあります。

なお、中小法人の交際費の損金算入限度額は、個別納税であれば各法人ごとに600万円ですが、連結納税であればグループ全体で600万円となるため、確実に不利となります。

長い目で考えるデメリットのまとめ

①のとおり、連結納税は原則としてやめることができないため、長い目で考えることが重要です。

時価評価や繰越欠損金制限は、連結納税開始時点の痛みは一時的なものですが、将来的にM&Aなどで子会社を増やしていくとしたら想像以上のマイナス要素になりかねないものです。事務作業の手間に関しても、子会社が増えるごとにプロジェクトを立ち上げて、全体の足を引っ張らないようにしっかり指導していく必要があり、M&Aの実務的なハードルになります。

おわりに

一度導入するとやめられない連結納税ですので、目先の繰越欠損金や税額控除だけに捉われることなく、長期戦略を見据えて検討したいものです。

たとえば、M&Aはあまり考えず、多角化は子会社を新設して育てていく戦略の場合、初期の赤字をグループ全体で活用できる連結納税は非常にメリットがあるでしょう。

一方、M&Aで黒字の会社を買収していきたいという戦略であったり、新規事業は黒字化するまで親会社内部で育てていこうと考える場合は、長期的には大きなメリットよりもデメリットのほうが大きいと思います。

いずれにせよ、5年後10年後にグループをどうしていきたいか、経営者の考えをじっくりと定めていく必要があると思います。

[関連コンテンツ]

「支配関係」と「完全支配関係」

合併の税務処理まとめ

株式交換の税務処理まとめ

 

組織再編税制 とらの巻では、税理士や経営者の皆さまのお役に立つコラムを不定期更新しております。上記のいいね!を押すとFacebookのニュースフィードに更新情報が表示されますので、ぜひご利用ください。

トップへ戻る

合併・分割・組織再編 無料相談 組織再編のプロがしっかりサポート! 古旗淳一税理士事務所 リンクバナー

組織再編税制とらの巻