経営相談に役立つ【親子会社】の25のメリットとデメリット

親子会社のメリットデメリット

はじめに

前回は、合併のメリットとデメリットをまとめました。今回は合併とは別の道、親子会社関係でグループ経営をすることのメリットとデメリットを考えます。なお、合併のメリットとデメリットについては以下をご参照ください。

経営相談に役立つ【合併】の22のメリットとデメリット

ちなみに親子会社を形成する方法としては、

  • ・新規事業の箱として子会社を設立
  • ・M&Aで株式を買収し、合併せずそのまま運営
  • ・会社の一部事業を分社型分割で法人化
  • ・兄弟会社間で株式交換し、完全子会社化

などが挙げられます。

なお、使用する3つの視点は前回の合併と同様です。

[今回考える3つの視点]

▶1.組織運営面から見たメリットとデメリット

▶2.税務面から見たメリットとデメリット

▶3.財務・会計面から見たメリットとデメリット

1.組織運営面から見たメリットとデメリット

1-1.組織運営面のメリット

1-1-1.別々の運営が可能

法人格を切り分けることで、別の業務オペレーションや意思決定ラインを作ることができ、個々のビジネスにそれぞれ合致した会社経営・組織づくりを目指すことができます。

これにより、子会社の意思決定がより現場目線になったり、スピーディーになったりといった効果が期待できます。

1-1-2.企業文化の維持

M&Aで買収した会社が独自の企業文化を持ち、それがその会社の競争力の源泉である場合には、無理に合併すると競争力を台無しにしてしまうことがあります。

親子会社であれば、別会社として協力しながら、お互いのよいところを取り込み、守るべきところは守るといった運営が可能になります。

1-1-3.競争関係の維持

グループ会社であっても別会社であれば、取引における価格交渉や資金融通の名目(貸付、配当etc.)の点で、形式的には対等な取引先としての取引が求められます。この建前があることで、一定のケジメとして、ある程度は会社ごとに合理的な判断を求めることができます。

会社間競争が不毛なコストを生むこともありますが、競争によってグループ全体の体力を引き上げることもあります。各社の努力が全体最適に結びつく仕組みを作ることができれば、自律的に強くなっていく企業グループが生まれます。

1-1-4.コンプライアンス・内部統制に関する猶予

合併してしまうと、社内ルールを短期間に統一し、遵守されるようにしなければなりません。M&Aでコンプライアンスや内部統制に問題がある会社を買収した場合、一旦子会社として残すことで、ゆっくりとコンプライアンス意識や社内ルールを浸透させていくことができます。

1-1-5.従業員の不安・ストレスの軽減

合併すると、吸収消滅会社の従業員は強い不安とストレスを覚えます。自身の継続雇用、給与、異動の有無への心配や、新しいルール・人事考課への不満などです。このような人心の問題を甘く見て合併すると、大量退職など悲惨な結果を招きます。

特にM&Aの局面では、当面子会社として現状維持であるという旨を従業員に伝えることで、不安を大幅に軽減することができます。

1-1-6.人件費水準・人事制度の区別

たとえ職務内容が違っても、同じ会社で別の給与テーブルや人事制度を使うことはなかなか容易ではありません。うまく作らなければ必ず不満が発生します。

この点、会社が別であれば、異なるルールが運用されることの抵抗は大幅に軽減されます。

1-1-7.人材育成の場としての活用

期待のミドルやM&Aで買収した会社の役員など、将来的には親会社の役員に登用したいが時期尚早という人材がいる場合、子会社役員として経験を積ませる方法があります。

また、子会社で異なる文化に触れさせたり、しがらみのない中で大きな仕事を任せたりといった、「道場」としての役割を果たすこともあります。

1-1-8.資本提携しやすい

オーナー社長にとって、株式の一部を他人に渡すというのは勇気のいる決断です。親子会社であれば、一部の提携したい事業の会社の株式だけを渡し、その他のグループ企業の支配権は従来通り、という微調整ができます。

1-1-9.売却しやすい

事業の一部を外部に売却したい場合、ある程度完結した1つの会社として売却したほうが、売り手としても買い手としても売買しやすいことが多いです。

1-2.組織運営面のデメリット

1-2-1.全社方針の不浸透

親子会社となると、経営トップの言葉や考えを子会社にまで浸透させることは容易ではありません。単一会社のような感覚でいると、親子会社間で大きな温度差を生むことになります。

グループを統括する経営者としては、全社のビジョンや経営方針を、親会社とは別に子会社にも向けて発信していく努力が求められます。

1-2-2.重複部門の発生

1つの会社を2つにすると、帳簿も2倍、銀行口座も2倍、人事制度も2倍ですので、管理部門に関する経費が増加します。税理士や社会保険労務士への報酬も増加します。

本部機能を親会社に統合していくことで、相当程度のコスト削減はできますが、1つの会社の場合に比べると増加することはやむをえません。

1-2-3.社内ルール統合の停滞

複数の会社で同一の社内ルールを適用しようとしても、なかなか浸透しなかったり、運用の厳格さに会社間で差が生じたりするものです。

強いリーダーシップで強力に統一したい場合は、合併のほうが適しているでしょう。

1-2-4.優劣意識の発生

人間である以上どうしても彼我を比べてしまうものです。一般的に親会社社員は子会社社員に優越感を感じ、子会社社員は親会社社員に劣等感を覚えるものです。

親子会社の場合、合併や持株会社制に比べてその意識が強く、また長く残りやすい傾向があります。

1-2-5.社内手続のムダ

たとえば親会社の備品を子会社に使わせるだけでも、別会社というだけで社内手続が煩雑になることがあります。これはグループ会社間のケジメとして必要な場合もありますが、手続を行うスタッフとしてはムダと感じることもあります。

グループ間取引に関しては一定の別ルールを作り、定期的にメンテナンスすることが望ましいでしょう。

1-2-6.コンプライアンスの問題

一般に大きな会社より小さな会社のほうがコンプライアンスに問題を抱えています。子会社の従業員としてはどこかに小規模会社だという甘えが生じ、親会社に比べてコンプライアンスの問題を起こすことが多いようです。

この点はグループ全体の信用にかかわる重大な問題ですので、親会社が責任をもって指導する必要があります。

2.税務面から見たメリットとデメリット

2-1.税務面のメリット

2-1-1.繰越欠損金の保持

M&Aで買収した会社の場合、すぐに適格合併すると、繰越欠損金の引継制限などの規定によって繰越欠損金が消滅することがあります。詳しくは以下のページをご覧ください。

繰越欠損金・特定資産譲渡等損失制限

その点、子会社として残せば、原則として繰越欠損金は使うことができます。

ただし、既存事業の廃止や新事業の開始など極端な行為を行った場合には、「欠損等法人の欠損金繰越の不適用」と呼ばれる規制により消滅することもあります。この規定については、今後別の記事で取り上げる予定です。

2-1-2.各種節税策の活用

たとえば中小法人の交際費は、連結納税しなければ1法人600万円まで損金算入可能ですので、法人の数が多いほど多くの金額を損金とすることができます。

また、複数の会社であれば消費税の課税売上が分散されるため、免税措置や簡易課税が受けやすくなります。

2-1-3.相続税等の株価引き下げ効果

分社によって相続税上の株価が引き下がることがあります。

たとえば、複数の事業を持つ会社が一部事業を分社化し、「事業持株会社」と呼ばれる体制に移行することで、親会社の利益額を抑えて株価を下げる方法があります。

2-2.税務面のデメリット

2-2-1.損益通算ができない

法人格が違うと、連結納税を選択していない限り、黒字会社の利益と赤字会社の損失を相殺することができません。

100%親子グループであれば連結納税が選択できますが、なかなか使い勝手の悪い制度ですので、安易な導入はおすすめしません。詳しくは以下をご参照ください。

長期戦略で考える連結納税のメリットとデメリット

2-2-2.繰越欠損金の期限切れリスク

子会社の持っている繰越欠損金はグループ会社で使うことはできません。いつまでも赤字が解消しない場合、繰越欠損金が期限切れとなるリスクがあるため、引継制限規定に注意しながら、合併で親会社に取り込むことも選択肢に入れていきましょう。

繰越欠損金の引継制限

3.財務・会計面から見たメリットとデメリット

3-1.財務・会計面のメリット

3-1-1.会計情報の信頼性

同一会社で複数の事業を営む場合、事業部門別に損益管理をすることが望ましいですが、きちんとした体制を整えなければ、その運用は曖昧になりがちです。部門間で費用の配分ミスがあっても、会社全体で合っていれば税金計算には困らないので、どうしてもチェックが甘くなるからです。

別会社にすると、切り分け基準が明確になり、税理士のチェックも厳しくなるため、管理会計制度構築に特別な力を入れなくても、ある程度の水準の信頼性が確保できます。

3-1-2.管理責任の明確化

別会社とすることで、資産・負債の管理や利益に対する責任者がはっきりし、より厳しい管理が実現できます。

3-1-3.資金調達のメリット

子会社の株式の一部を外部に持ってもらうことで、資金調達上のメリットを得られることがあります。

3-2.財務・会計面のデメリット

3-2-1.資金融通が煩雑に

親子会社であっても、建前上は会社は独立して自社の利益を追求しなければならないため、会社間の資金融通が面倒なことになります。

グループ会社間で資金を送る場合、配当、貸付、寄付、仕入、経営指導料、人材派遣料などの名目をはっきりさせて、契約書の締結(印紙税が発生することも)などきちんと体裁を整えておく必要があります。

3-2-2.会計に融通が利かない

別会社にすることで会計情報の信頼性が増すことはメリットなのですが、ここでいう会計情報とは公的な会計ルールによるもので、グループ内で独自ルールを設定することは容易ではありません。場合によっては同一会社で管理会計を導入したほうが、事業管理上のメリットを享受できることもあります。

おわりに

上記において、①組織運営面、②税務面、③財務・会計面の3つの視点でメリットとデメリットを解説しました。

上記3つの視点はいずれも重要ですが、合併の場合と同様に、もっとも重要なのは①組織運営面です。何よりもしっかりした組織を作ることが、継続的に利益を上げていくために必要であると考えています。

 

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