うっかり用心!合併で繰越欠損金を取り込む際の注意点(前編)

合併で繰越欠損金を取り込む際の注意点

はじめに

合併に関して経営者さんや税理士さんから、もっとも多くいただく質問が、繰越欠損金の扱いに関してです。

合併は大掛かりのため、本来節税目的だけで行うべきではありません。とはいえ、企業の子会社が多額の繰越欠損金を持っていれば、親会社で使える方法を調べて提案することは、ある意味では経営者・顧問税理士としての職責だろうと思います。

本サイトでは、下記のコンテンツで繰越欠損金の引継制限について制度を解説しております。

繰越欠損金の引継制限

さて、今回はそれを踏まえて、さらにわかりやすく、合併によって繰越欠損金を引き継ぐ際の注意点を解説します。長くなるため今回は前編とし、引継制限が課される要件を中心に取り上げます。

〔今回の内容〕

繰越欠損金の引継ぎは適格合併だけ

引継制限が課されるケース

引継制限の制度趣旨

強引な要件充足は否認対象!

〔後編の内容〕

▶引継制限が課される場合の注意点

▶引継制限が課されない場合の注意点

▶引き継げない繰越欠損金の活用方法

うっかり用心!合併で繰越欠損金を取り込む際の注意点(後半)

繰越欠損金の引継ぎは適格合併だけ

合併によって繰越欠損金が引き継げるのは、適格合併の場合に限ります。つまり、非適格合併では引き継ぐことができません。

非適格合併の場合、被合併法人(消滅会社)が持っている繰越欠損金は消滅します。永遠に使うことはできません。なお、非適格合併によって売却益が出た場合には使うことができ、当該売却益も含めた課税所得と相殺した後の残りの部分が消滅します。

適格合併の要件及び非適格合併の税務処理については以下をご参照ください。

適格合併の要件
非適格合併の税務仕訳

引継制限が課されるケース

適格合併であっても、後述の趣旨のもと、繰越欠損金の引継制限規定が用意されています。引継制限の要件を満たさない場合は、被合併法人の繰越欠損金は全額引き継ぐことができますが、要件を満たしてしまう場合は一部しか引き継ぐことができません。

繰越欠損金の引継制限の要件については、以下のコンテンツで詳しく紹介しています。

繰越欠損金の引継制限

かいつまんで説明すると、引継制限が課されるケースは、ほとんどが以下のような場合です。

買収した会社を5年以内に吸収合併する場合で、かつ、以下のいずれかを満たす。

  • ・両社の事業に関連性がない

  • ・子会社が小規模(5分の1未満)で、かつ、買収前の主要役員は退任してもらった

ただし、上記に当てはまらないケースでも引継制限が課される場合はありますし、その逆もまた然りです。

繰越欠損金引継制限の趣旨

ここで引継制限が課されている趣旨を説明すると、法人税法の基本スタンスは「繰越欠損金目当てのM&Aは認めない」ということです。課税当局はこのようなM&Aは租税回避行為と考えています。

なぜなら、そもそも繰越欠損金の制度は、一連の企業活動の中で発生する赤字と黒字を相殺するという趣旨ですので、赤字の時期と黒字の時期に連続性がなければいけません。したがって、繰越欠損金を引き継げる合併とは、2つの会社が合流して一緒に1つの会社を経営していくといった、双方の会社の連続性が認められる、いわゆる「対等の精神」が名実ともに守られている合併や、もともとのグループ会社同士の合併に限られます。

よって、M&Aで買収してきた会社との適格合併の場合には、原則として引継制限が課されます。しかし、以下のような場合には制限を免除しています。

  • ・支配関係後5年を経過(それだけ経っていれば繰越欠損金目的とはいえない)
  • ・ある程度(5倍以内)事業規模が近い(一方的な吸収とはいえない)
  • ・買収前の重役が合併後も経営に関与(繰越欠損金目的とはいえない)

強引な要件充足は否認対象!

M&Aで繰越欠損金を引き継げることは多くはない

M&A後すぐに合併する場合、繰越欠損金の引継ぎができるケースは、そう多くありません。赤字会社を買収するのは遥かに大きな規模の買い手である場合が多く、多額の赤字を出した会社の重役が合併後重役になれるケースは稀だからです。

それでも繰越欠損金はぜひ利用したいものですので、強引に形式を充足しようとする人間も出てくるものです。それに対し、課税当局が税務否認し、大きな裁判になったことがあります。それが、ソフトバンクグループが争った「ヤフー事件」です。非常に複雑な事件ですので、詳しい解説は別の機会に書きたいと思いますが、以下でざっくりと要点だけをご説明します。

ヤフー事件のざっくりした内容

ヤフー事件(ヤフー・IDCF事件)は、通常であれば引き継げない繰越欠損金を引き継ぐため、ひと手間かけて引継制限を受けない形式を作り上げてから合併した、という事件です。

ポイントだけを簡単に説明すると、通常であれば「買収→役員派遣→合併」という手順を踏むところ、「役員派遣→買収→合併」という順序で再編を行いました。これによって、買収前に派遣された重役が合併後にも重役になれば、形式的には役員の経営参画要件を満たすことができます。

ヤフー事件では、役員派遣から合併までが3カ月しかなく、派遣された方以外の役員は合併後全員退任しています(つまりこの手順での役員派遣がなければ引継制限されていた)。ただし、派遣された役員の方は完全に名ばかりというわけではなく、合併準備や事業計画策定を指揮していたとのことです。

否認理由と裁判結果のざっくりした内容

これに対して課税当局は、「形式的には引継可能な要件を満たしているが、制度の趣旨に明らかに反する」として否認し、更正処分しました。役員の派遣自体は実態のあるものであっても、趣旨に反する不自然なものと主張しています。

ソフトバンクグループはその後最高裁まで戦ったものの、裁判でも「このような形での引継要件充足は、本来の制度趣旨を逸脱するもの」と認定され、3戦全敗で敗訴しました。

裁判を踏まえた教訓

これらの裁判結果は、制度趣旨に反する合併や強引な要件充足は、否認されるリスクが高いという教訓を示していると思います。

実態のない名ばかり役員をでっち上げるのはもちろんのこと、多少の理屈や合理性を作っていたとしても、それが不自然であって、繰越欠損金活用が主目的であると認定されれば、否認を受けるリスクは十分にあります。

同様に、たとえば買収前に増減資をして資本金の比を5倍以内に抑えるような操作をした場合も、その増減資の意味・必要性について厳しくチェックされ、繰越欠損金の引継ぎが主目的と認められた場合は否認されるリスクが高いと思われます。

前編のまとめ

今回は、繰越欠損金引継制限規定の要件を中心に解説しました。企業価値というものは、繰越欠損金を織り込むか否かで大幅に変わることがあり、M&Aでは価格を決定する際の重要な要素となることがあります。しかし、その引継可否については慎重に判断し、判断ミスには十分に用心していきましょう。

次回は後編として、引継制限を受ける場合の注意点、受けない場合の注意点を中心に解説しております。引き継げない場合の活用方法にも触れておりますので、ぜひご確認ください。

うっかり用心!合併で繰越欠損金を取り込む際の注意点(後半)

 

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